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書評(その2)

 これも最近のグッときた一冊。

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里 著、角川書店/角川文庫
 少女時代をプラハで過ごした著者が、ソビエト学校で出会った個性的な学友たちとの出来事を語ったエッセイです。卓越した洞察力とユーモア溢れる文章で多くの方に支持されている米原さんの作品を、初めて拝読しましたが、私もすっかりその魅力に取り付かれてしまった一作です。
 『リッツアの見た青空』『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』『白い都のヤスミンカ』の三章構成で、それぞれの章の主人公は「ギリシャ人のリッツァ」「ルーマニア人のアーニャ」「ユーゴスラビア人のヤスミンカ」。1960年代という時代、東欧という地理、社会主義体制など様々な背景と要因があるのでしょうが、十代前半の少年少女たちが「祖国」を意識して、確固たる主義主張を持っていることに驚かされました。米原さんが帰国した後、三人の学友たちも様々な事情から学校を去って行ったようです。大人になった米原さんが三人の学友を探す過程で、東欧の激動が肌で感じられほどに見えてくるところが圧巻です。
 ルーマニアでチャウシェスクという大統領が処刑されたのは、処刑後の写真が新聞に載っていたのも含めて、私の記憶に今も鮮烈に残っています。その時私は新聞の写真に恐ろしさを感じながらも、「これでコマネチさんも自由になれるのかな」なんて考えていました。しかし、チャウシェスク亡き後のルーマニアは、「チャウシェスク夫妻とドラ息子が抜けただけの、そのままチャウシェスク政権だ」と米原さんに同行したルーマニア人が言ったそうです。そこに行かなければ分からないもの、そこで暮らしていなければ分からないものがあると、思い知らされる一言です。
 最も心を動かされたのは最終章。ユーゴスラビア人のヤスミンカさんは内戦に翻弄されながらも、激動と激戦のさ中を、しっかりと自分らしく生き抜いていました。これまで「コソボ紛争」などのニュースを見聞きしても実感はなく、外国で起きている出来事の一つとしかとらえていなかったのですが、こういう作品を読むと、それが「身近な人間の物語」として心に迫ってくるようになります。以来私は、新聞の国際欄に目を通すようになりました。ヤスミンカはソビエト学校を去る米原さんに、別れの手紙を渡しています。母国語で書かれた手紙の意味を、米原さんは後年ヤスミンカを探している時に知ることになるのですが、それは米原さんの目を涙で霞ませる内容でした。その文面はあえて書きませんが、それは別れゆく友達への愛と思いやりに溢れていました。書いている人の心の成熟を感じます。と同時に十代前半の心を成熟させる背景(政治情勢)をも伺わせます。私がこの作品の中でもっとも心を動かされたのは、このヤスミンカの手紙でした。
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